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東京地方裁判所 昭和60年(特わ)1020号 判決 1985年7月16日

本店所在地

東京都豊島区千早町四丁目一番地

日米体温計株式会社

(右代表者代表取締役 石川博信)

本籍

東京都豊島区千早町四丁目一五番地六

住居

同都練馬区富士見台二丁目二七番一号

会社役員

石川博信

大正一四年五月一一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官鹽野健彦出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一、被告人日米体温計株式会社を罰金二二〇〇万円に、被告人石川博信を懲役一年にそれぞれ処する。

二、被告人石川博信に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人日米体温計株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都豊島区千早町四丁目一番地に本店を置き、体温計の製造・販売等を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人石川博信(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五六年二月一日から同五七年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五、三〇三万二五〇円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年三月三〇日、東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所在の所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第七二三号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二、一、二二一万八、九〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五七年二月一日から同五八年一月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が五、五五二万一、二八〇円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年三月三〇日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一八五万六、九三三円でこれに対する法人税額が四九万六、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第七二三号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二、二二九万八、四〇〇円と右申告税額との差額二、一八〇万二、〇〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五八年二月一日から同五九年一月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億一九万三、二〇六円あった(別紙(三)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年三月三〇日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一二〇万二、三三〇円でこれに対する法人税額が三〇万三、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第七二三号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四、一〇六万三、五〇〇円と右申告税額との差額四、〇七六万四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年三月二〇日付供述調書

一  水野敬二及び仲尾智恵子の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  売上高調査書

2  当期製品製造原価調査書

3  交際費調査書

4  租税公課調査書

5  受取利息調査書

6  株式売買益調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書三通

一  豊島税務署長作成の証明書

一  登記官作成の被告会社の登記簿謄本一通及び同登記簿の閉鎖役員欄の謄本一〇通(いずれも被告会社との関係のみで証拠となる)

判示第一及び第二の各事実につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  材料仕入高調査書

2  期末材料たな卸高調査書

3  株式売買費用調査書

4  欠損金の当期控除額調査書

判示第一の事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年三月二三日付供述調書

一  収税官吏作成の交際費損金不算入額調査書

一  押収してある確定申告書(昭和五六年二月一日から同五七年一月三一日までの事業年度分)一袋(昭和六〇年押第七二三号の1)

判示第二及び第三の各事実につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  期首材料たな卸高調査書

2  受取配当金調査書

3  支払利息調査書

判示第二の事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年三月二五日付供述調書

一  収税官吏作成の債券売買益調査書

一  押収してある確定申告書(昭和五七年二月一日から同五八年一月三一日までの事業年度分)一袋(昭和六〇年押第七二三号の2)

判示第三の事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年三月二六日付供述調書

一  収税官吏作成の期末仕掛品たな卸高調査書及び期末製品たな卸高調査書

一  押収してある確定申告書(昭和五八年二月一日から同五九年一月三一日までの事業年度分)一袋(昭和六〇年押第七二三号の3)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社

判示第一ないし第三の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

2  被告人

判示第一ないし第三の各所為につき、法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき、いずれも懲役刑を選択

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の事情)

被告会社は、体温計の製造・販売等を目的として被告人が昭和三〇年に設立した株式会社であり、棒状のガラス体温計を製造し、主に中南米、東南アジア方面へ輸出する輸出業者に対しこれを販売していたものであるところ、大手の体温計メーカーが棒状のガラス体温計の製造を中止したことなどによって昭和五〇年代の半ば頃から売上が伸び、利益も増えるようになったが、被告人は、ガラス体温計としては国内ではもっぱら平型体温計が使用され、棒状体温計は主に発展途上国への輸出用に限られており、単価も低い上、近時インド、韓国、中国等の製品との競争も激しくなってきていることから、被告会社の将来を考えて単価の高い平型体温計の製造、販売へ転換することを目論み、利益の出ているうちにその転換資金を留保しようとして、昭和五五年頃から、架空仕入を計上し、また簿外の預金口座に売上の一部を入金させたり、被告人が所有するいわゆる休眠会社を被告会社と取引業者との間の売買に介在させるなどして売上の一部を除外し、さらに、留保した簿外資金による預金の受取利息や株式売買の売買益を除外するなどの方法により被告会社の所得を圧縮して法人税を免れていたものである。本件は、被告会社の昭和五七年一月期から同五九年一月期までの三事業年度に係る法人税ほ脱の事案であるが、ほ脱額は合計八、三七八万一、三〇〇円と高額であり、また、ほ脱率は三事業年度の平均でも九九パーセント以上の高率となっている。しかも、被告人が設立し、維持してきた被告会社の将来を案じ、利益の出ているうちにその事業資金を留保しようという気持ちは理解できるが、その手段として被告会社の所得を秘匿し、虚偽過少の申告により法人税のほ脱を行うに至っては目的のためには手段を選ばないものとして強く非難されるべきものであり、被告人の本件の動機についてこれを特に斟酌することもできない。以上の事情を考えると被告人の刑事責任は厳しく追及されるべきものである。しかし、本件は、会社に事業資金を留保する目的のみで行われたものであるところ、被告会社は、昭和五六年一月期から同五九年一月期までの四事業年度分について修正申告した上、本税、重加算税、延滞税を完納し、地方税についてもほぼすべて納付していること、被告人は、昭和一三年に体温計製造会社に勤務して以後昭和二五、六年頃独立して現在に至るまで体温計の製造、販売に従事し、被告会社設立後はその維持、発展に努力してきた勤勉な企業人であり、被告会社にとって重要な存在であるが、本件につき反省、悔悟し、今後の過ちなきを誓っていること、前科、前歴のないことなど被告人に有利な情状も存するので、これら諸般の事情を総合勘案した上、主文のとおり量刑する。

(求刑 被告会社につき罰金二、五〇〇万円、被告人につき懲役一年)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 石山容示)

別紙(一) 修正損益計算書

日米体温計株式会社

自 昭和56年2月1日

至 昭和57年1月31日

<省略>

別紙 修正損益計算書

(製造原価の内訳)

自 昭和 年 月 日

至 昭和 年 月 日

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

日米体温計株式会社

自 昭和57年2月1日

至 昭和58年1月31日

<省略>

別紙 修正損益計算書

(製造原価の内訳)

自 昭和 年 月 日

至 昭和 年 月 日

<省略>

別紙(三) 修正損益計算書

日米体温計株式会社

自 昭和58年2月1日

至 昭和59年1月31日

<省略>

別紙 修正損益計算書

(製造原価の内訳)

自 昭和 年 月 日

至 昭和 年 月 日

<省略>

別紙(四)

脱税額計算書

<省略>

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